わたしが初めてオペラに接したのは、静岡に赴任していた当時取材した旧・韮山町の町民オペラ「頼朝」です。新しいホールの開館に合わせて上演されたもので、町民が手作りで作り上げた日本語の創作オペラでした。源頼朝が伊豆に流されて、平家打倒に向けて旗揚げするまでを描いた作品です。
オペラに詳しくないわたしも手作りのオペラはいいなと感激しました。町民オペラの作り手たちはその後も世界遺産となった韮山反射炉をつくった代官・江川担庵を題材にした創作オペラも成功させています。
次に鑑賞したのはサンフランシスコオペラの初演「ドクター・アトミック」です。原爆を開発する過程で自問自答する科学者オッペンハイマー博士を描いた新作でした。素人のわたしは原爆投下につながる内容に複雑な思いを抱きながらも、オペラは新しく作っていいものなのだと感心しました。
昭和音楽大学オペラ研究所によりますと2019年、海外のオペラは103作品で、658回上演されています。これに対して日本語の創作オペラは85作品あり、426回上演されています。人気の創作オペラは「森は生きている」、「ネズミの涙」、「タング」、「トラの恩返し」などです。特定の劇場で上演するのではなく、ひとつの団体が劇場をめぐるツアー形式が目立っています。
わたしは藤沢市でも創作オペラができないかと思い描いています。過去には三枝成彰氏が作曲した創作オペラ「竜恋譜(りゅうれんふ)」が上演されています。市民会館の開館10周年を記念してつくられました。藤沢・鎌倉には源平という一級の素材があります。頼朝と義経の兄弟の確執や承久の乱に至る権力争いはオペラの題材としてふさわしいと思います。
もうひとつが「日本のシンドラー」として知られる元外交官の杉原千畝氏です。杉原氏はリトアニアに駐在した際、ユダヤ難民を救おうと外務省の許可なくビザを発行しますが、追われるように退職しました。戦後は鵠沼に住んで商社などに勤めますが、そんな中、ビザで命を救われたユダヤ人が訪ねてきます。そして亡くなる直前、イスラエルから表彰され名誉を回復します。
これらの題材はすでに創作オペラがつくられています。鎌倉芸術館の開館記念として上演された「静と義経」は3年前、日本オペラ協会が再演しています。「杉原千畝物語・人道の桜」は千葉県四街道市などで上演されています。
創作オペラをつくるにはお金も時間もかかり、しかも歌手に歌いたいと思わせる水準でなければなりません。昭和音楽大学は文化庁と共に新しい試みを行なっています。すぐれた日本語の創作オペラを生み出すには台本の書き手と作曲家の意思疎通が欠かせません。すぐれた人材を育てるため5組を選び出し、新しいオペラづくりにペアで取り組んでいるのです。
藤沢市は新しい市民会館の整備を予定しています。市民オペラもさらなる発展を遂げる機会です。独自の創作オペラに挑むときなのではないかと思います。