経済格差が学力格差につながっているとして子どもたちの支援活動を行なっている公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」が、新しい調査報告書をまとめ、経済格差が「体験格差」にもつながっていると結論付けました。
この団体では、放課後の過ごし方で学力に格差が生じてる現状を変えようと、寄付などを集めて学習塾や習い事に使える「スタディクーポン」を提供しています。この10年余りで5千人を超える子どもたちがクーポンを活用して学んだということです。
団体では今回のコロナ危機を通じて、運動や文化活動、それに自然体験などの機会が減ってしまったが、そもそも経済的に恵まれない子どもたちは、こうした学校以外での体験活動が少ないと感じてきたそうです。このため去年10月、大手銀行の研究所とともに大規模な調査を実施しています。
経済格差が「体験格差」に
この調査は、全国にいる小学生の子どもがいる保護者を対象に実施されたもので、2097件の有効回答がありました。調査における「体験」とは、球技や水泳などスポーツ、音楽や語学など文化芸術といった習い事のほか、キャンプや海水浴など単発的な自然体験、動物園や美術館見学、旅行など単発的な文化的体験と定めています。
まずこうした「体験活動」への参加状況を聞いたところ、学校以外の体験がないと答えたのは、▲世帯年収が600万円以上の場合、11.3%だったのに対して、▲300万円未満の場合、3倍の29.9%に跳ね上がっています。年収が少ない家庭ほど体験活動が少ないことが判ります。
また「体験活動」をあきらめた理由については、▲600万円以上の場合、「保護者に時間的な余裕がないから」が最も多く、「家の近くに参加できる活動がないから」と続いているのに対して、▲300万円未満の場合、「保護者に経済的な余裕がないから」が最も多く、次に「保護者に時間的な余裕がないから」となっています。
時間的な余裕がないという答えは共に多いものの、経済的な余裕を理由に挙げたのは、▲300万円未満が56.3%に上ったのに対して、▲600万円以上は16.9%にとどまっています。
「水泳」と「音楽」で大きい格差
分野別にみてみますと所得が高い世帯と低い世帯でとくに差が大きいのは「スポーツ・運動」です。参加者がずば抜けて多いのが「水泳」で、▲600万円以上の参加率が32.7%なのに対して、▲300万円未満が14.8%となっていて、2倍以上の開きとなっています。ほかのスポーツで言えば「球技」はそれほどのひらきがありません。団体では、「水泳」は民間が運営しているのに対して、「球技」は保護者や地域のボランティアに支えられているため参加費用が違うためではないかと分析しています。
「文化芸術」分野で参加者が多いのは「音楽」で、▲600万円以上が17.5%であるのに対して、▲300万円未満が7.5%にとどまっています。ほかでは「科学・プログラミング」も差が大きく、高価な楽器やコンピューターを使う必要があるためではないかと分析しています。さらに格差が顕著なのは「自然体験」で、東京など大都市圏では、▲600万円以上が年間1万8900円余り支出しているのに対して、▲300万円未満は4000円余りで、4倍以上の開きとなっています。
「体験活動」の担い手とは
このように見てみますと費用の問題は、活動の担い手がどのような組織かによって変わってくることに気づかされます。調査では活動の担い手について調べていて、▲「定期的な体験活動の運営主体」について、「スポーツ・運動」、及び「文化芸術」は共に7割以上を民間が占めていて、残りがボランティアなどとなっています。▲「単発で行なう体験活動の運営主体」については、「自然体験」及び「文化的体験」、共に3割以上を民間が占めていて、保護者や友人など個人も3割前後に上っています。そのほかはボランティア、そして自治体・公的機関となっています。自治体・公的機関の割合は、「自然体験」が10.7%、「文化的体験」が17.5%となっています。
体験格差をなくそう
調査結果を受けて団体では、これまでは学力格差の解消に取り組んできたが、物価高などで体験活動が削られていく中、経済支援が必要だとして、体験活動に特化した「ハロカル」と呼ばれる奨学金制度を創設しています。今井悠介代表理事は「子どものときの体験はぜいたく品ではなく、成長する段階で必要なものだ。これまでのような才能のある子どもではなく、子どものやりたいことに対して支援を行なおう」と訴え、寄付など協力を呼びかけました。登壇者の一人である自然教室の運営者も、「遠出のキャンプに来る子どもはどうしても裕福な家庭になりがちだ。もっといろいろな子どもたちに体験してもらって、心の故郷をつくってもらいたい」として受け入れ先となった動機を話しました。行政と民間でまず役割分担の整理を経済格差が学力のみならず、体験格差につながることがデータとして示されたこと、そしてこのような奨学金制度ができたことは評価すべきだと思いました。
藤沢市でも中学生の73%が学習塾に通っていることが明らかになっていて、学力格差が顕著です。わたしはいまの学力が学習塾抜きでは成り立っていない現実を認めた上で、民間の力も借りつつ、学校を本来の勉強する場所に変えていく必要があると考えています。そのためには本業以外で忙しい教師が、授業に集中できる環境をつくっていくことが大事です。ただ一足飛びにという訳にはいかないので、当面の学力格差を開帳する一つの対策として「チャンス・フォー・チルドレン」が進めている「スタディクーポン」に注目してきました。
今回の体験格差への支援については、体験活動そのものが多様なため、ひとくくりできないなと感じました。まずは学校を含めた行政ができる分野と民間ができる分野を整理して、役割分担を見直す必要があるかと思います。
「水泳」「音楽」そして「プレイパーク」がカギ
地域への中学の部活動の移行が進もうとしている中、民間を活用していく流れは時代に合っています。とくに参加する小学生が多い水泳は、早急に取り組まなければならない課題です。いま全国的に学校のプールを統廃合する動きが出ていて、藤沢市でも民間のプール活用を含めた検討が進んでいます。学校から民間のプールへ水泳の授業が委託されれば、体験格差もかなり解消されるはずです。
音楽については、教える人材以前に、練習する場所が足りないという問題があります。藤沢市の場合、市民会館の再整備に伴って新しいホールを建設しますが、子どもたちが練習できる部屋を設置していくことが大切です。
自然体験と言えば、藤沢市には八ヶ岳の体験教室がありますが、身近な場所で自由に遊べるプレイパークが必要だと考えます。ただ野外での活動については保護者が安全面で心配しがちなので、世田谷区のプレイパークのように大人の指導者がいるのが大事だと思います。
団体では、本部がある東京・墨田区を中心に行政側とも連携しているほか、宮城県や沖縄県、岡山県にも担当者をつくって、各団体などとの調整を行なっています。せっかく立ち上がった奨学金制度ですので、これを機会に、全国的にも行政と民間が協力し合って、どこが体験活動を担うのが最適なのか話し合う必要があると思います。