元藤沢市議会議員 清水竜太郎 オフィシャルサイト

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公園の緑は「ソフトパワー」 

東京の明治神宮外苑の再開発事業が着工されました。この事業は、神宮球場と秩父宮ラグビー場の位置をほぼ交換する形で建て替えるほか、3棟の高層ビルを建てるもので、同時に一部の樹木が伐採される計画です。

これに対して住民や学者などから歴史ある貴重な緑や景観が失われる恐れがあるとして、事業に反対する声が挙がっています。

わたしも建築士などの市民グループが主催する現地の説明会に参加しました。わたしは、藤沢市で緑と景観を守るよう主張しており、神宮外苑にあるスケートリンクでアイスホッケーの練習をしていた縁があったからです。

「貴重な緑と空を守りたい」

神宮外苑と言えば、青山通りから4列に並ぶイチョウ並木が有名です。これについて事業者は「イチョウ並木はすべて保存し、北にある絵画館前の広場を望む見通し景観を継承する」として、球場の整備に当たってはイチョウの根の状態を調べて踏まえるとしています。これに対してグループでは、球場の外壁がイチョウ並木に近すぎて、杭の長さも考えれば根に影響が及び、保全が危ぶまれると主張しています。球場の周りには高層ビルも建つことから、景観も阻害され、ビル風も懸念されるとしています。またイチョウ並木の横からいまのラグビー場へと連なるイチョウについては、移植も検討するとされているものの、移植先や移植方法が示されておらず、具体性がないと不信感を示します。専門的な見地から、根回しやクレーンでの作業が必要で、費用もかなりかかると予想されることから現実性が乏しいと話します。さらに国立競技場と解体が始まった第二球場の間にある樹林の多くが伐採されるほか、いまは軟式野球場となってる大きな広場にテニスコートを作るため、大半の樹木が伐採される計画です。

2時間半を超える現地説明だったにもかかわらず、70人を超える参加者は熱心に聞き入りながら、木々の存在を確かめていました。わたしも都会のど真ん中にこれほどの緑あふれ、人々が集う公園があることに驚くと共に民間なのに公共性が高い場所だと感じ入りました。

専門家も事業の見直しを求める

こうした抗議を受けて、事業者は移植などによって伐採する樹木の本数を減らすと発表しています。3メートル以上の木は、いまの1904本から1998本に増やす計画です。伐採本数は当初より149本少ない743本で、移植予定は275本としていますが、新しく837本植えるためです。文化遺産の保存に係るユネスコの協力機関・日本イコモス国内委員会も、問題を追及してきました。委員会は「神宮外苑は国民が育んできた公共空間であり、優れて美的な公園風景だ」と評価した上で、今回の事業について「住民の声を受け止め、全面的に見直すよう」求めています。とくに東京都が環境影響評価の審議が終わらないのに事業を認可したことなど、十分な議論もなく話が進んだ点を批判しています。その一方で、いまある樹木を守るため、現在の球場とラグビー場の位置を変えずに建て替えるなど代替案も示しています。

民間の力でスポーツ拠点の整備を

事業者側の狙いは明確です。第一に挙げているのは、建て替えを進めることで国立競技場と連携しながら多くの人が訪れるスポーツ拠点を整備すること、そして青山通りの沿道には商業など都市機能を入れて賑わいをつくることです。

開発が制限されているはずの都市計画公園ですが、東京都は民間の力を利用した再開発ができるよう規制を緩和できる「公園まちづくり制度」を10年前、つくりました。オリンピックをきっかけに神宮外苑の「スポーツビジネス」としての性格を強めようという意図が感じられます。

東京都も市民グループの要望を受けて、事業者側に緑の保全に努めると共に具体的な計画や住民参加など情報発信するよう要請はしています。しかしこれまでの経緯を見れば、行政こそが費用が掛からないで済む民間主導の再開発を応援していることが分かります。

都会の緑がもつ「ソフトパワー」

わたしは現地説明を受けて、「ソフトパワー」という外交用語を思い出しました。軍事力や経済力に代表される「ハードパワー」に対して、良い理念や文化を通して相手を魅了し、自分の望む方向に動かす力とされます。神宮外苑の緑や景観はまさに「ソフトパワー」なのではないか、そう思わざるを得ませんでした。

わたしは去年9月議会の一般質問の冒頭で、実は神宮外苑の問題を取り上げました。なぜ神宮外苑の樹木伐採が問題になっているのか、それは都会の緑が少なく、貴重だからだと指摘しました。その上で藤沢市も人々が行きかう都市部や住宅街の緑を増やすこと、「見える緑」を増やすことこそが価値向上につながると訴えました。

都会の緑は少ないからこそ価値があります。商業施設のような数字では表せないものの、神宮外苑に緑があるからこそ、周りの価値も上がっているのです。まさしく見えないけど影響を及ぼす「ソフトパワー」だと言えるのではないでしょうか。

市民グループの挑戦

事業計画の見直しを求める市民グループは多岐に渡ります。現地説明会の主催者によりますと各々が、都議会に働きかけたり、訴訟を起こすなどあらゆる方法で立ち向かっているそうです。しかしながら報道などで注目されるようになったとはいえ、まだまだ社会の関心は低く、各々が手弁当で行なっていることもあって苦労が多いと話していました。さらに事業計画のどの部分の見直しを求めるのか、各々で考えが異なることもあり、争点を絞りづらいとも語りました。

都会の貴重な「ソフトパワー」を守るべく、再開発自体を止められればよいのですが、法的な外堀が埋まっている中、なかなか厳しいと思います。個人的には、再開発は仕方ないとしても現存する樹木を極力残せるよう、建物の立て方を工夫したりできないものかと考えます。

再開発の現実とルールの必要性

わたしは住宅街ではありますが、民間の再開発によって地元が変わっていく姿を目の当たりにしています。藤沢市の鵠沼地区は昨今、土地の分割によって自慢の松が次々に切られ、緑が減っています。このため自治会によっては代わりの木を植えるよう求める独自の協定を結んでいます。しかし法的な裏付けがないため、実際には相応の緑が植えられない例も少なくありません。わたしは条例化を求めてきましたが、消極的な答弁しか返ってきませんでした。何かしらの法的なルールがなければ再開発の波を止めることは難しいのが現実です。

残念ではありますが、東京がさらに「東京化」することは、東京郊外のまちにとっては逆にチャンスになると思っています。藤沢は、第二第三の東京になる必要はありません。自然と都市が調和したまちとしての価値を行政のリーダーシップで高めるときです。

神宮外苑

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